自由なスペースを演奏に Bill Evans。 ~2~
チック・コリア(p)がかつてフランス制作のドキュメンタリー番組で、
Bill Evansが音楽に残した最大の功績(遺産)は、『演奏における自由』 だと語っていました。
Bill Evans TRIOのインタープレイ
Bill Evansは『kind of Blue』の収録後、執拗に自身のグループで新しいスタイルの可能性を模索します。
Bill Evans最大の功績の一つは「Inter play」と呼ばれるトリオ形式での三位一体の即興。今ですとピアノトリオを聴きに行けば、だいたい聴かれます。インタープレイは3人が平等な立ち位置でソロ回しのみで完結せずに、同時多発ソロ演奏という、とても難しい「あゝうん」のスタイルだと思います。過去の演奏ではコール&レスポンスはあったかもしれませんが、インタープレイというスタイルは前例がなかったはずです。
後にBill Evansは実兄ハリー・エバンスがMCのドキュメントで「このトリオはすごい可能性を秘めている・・・プレイをして3、4日目の演奏で突然なにかがはじけ、我々はすごい演奏をしていた。トリオの可能性を証明できた」と語っています。
面白い事にBill Evans自身が狙ったスタイルではない事ですが、おそらくインタープレイというスタイルを確信した時期でしょう!次に「これは起こる事を待つしかない。求めて起こることはなかった」と語りました。Bill Evans TRIOは毎晩クラブで演奏をしていました。ちなみに当時は有名ではありません。
The Universal Mind of Bill EVANS-The Creative Process and Self-Teaching 1966年より。
インタープレイ確立のキーパーソンはスコット・ラファロ(b)です。彼の演奏は曲によっては、方向性が定まらず破綻すれすれのような演奏(Live盤)に聴こえることがあります。ときに演奏を推進させません!ベースラインをとらずにピアノと絡む、驚くことにリーダーのBill Evansが左手でベースライン担ってるという意外性もありました。
Bill Evans Trioのメンバーだった、エディ・ゴメス(b) 曰く、Bill Evansは「あーしろ、こーしろ、こーいう音が欲しい」と一切言わなかったと語っていました。後にマーク・ジョンソン(b)も同様なことを語ってました。普通ならリーダーやコンポーザーがある程度指示をするはずです。1stトリオのベーシスト、スコット・ラファロも自由に演奏させていたと考えられます。故に無尽蔵にアイデアが沸くスコット・ラファロのベースの飛躍はピアノトリオでの斬新さ、演奏の自由さへとつながっていったと解釈できます。すべてはBill Evansが引きだし、応えた結果。
他にも理由が想像できるのですが、それはBill Evans Trioのギャラや演奏時間帯じゃないかと思います。ギャラがすごく安かったわけです。例えば有名なライヴ盤「Live At The Village Vanguard, New York,USA / 1961」の2日間のギャラは、レコーディング料金を含んで、現代の貨幣価値で14万円程でしょうか。(コンプリート盤の付録に記載があります)。ビッグネームのジャズマンでも演奏だけで生活できた人はごく僅か。
当時はBill Evansグループの演奏時間帯は昼の部を担当する事が多かったのではと思います(彼が白人であった事も関係します)。夜の部がセロニアス・モンク達ですね。Bill Evans Trioで入るお客さんは疎らですので、自由に演り放題だったのかもしれません(推測)。20年ほど前のPIT INN(JAZZクラブ)の昼の部は4,5人しか客が入らないなんてザラでした。
さて、インタープレイですが、ソロ回しをしない演奏、もしくは重要性を置かない演奏だとすると、演者は耳を、感性をダンボにしていないと、トリオでの演奏自体がかったるい温いものになるか、破綻するか、奇跡的に凄いか、、、そんな危うさがあると思うスタイルです。一筆書きのペンキ画のような?後戻りできないスリル。
コトが起こることを”確信的”に待つ、というスタイルがBill Evans。
晩年期の音源や同時期テレビ局(伊)の収録で残っている演奏(DVD)を聴くと、、、狂気が深く宿った演奏としか聴こえないものがいくつも残されています。第3期のラストトリオでの演奏。
Bill Evans Trio – Gloria’s Step 1972
Bill Evansの晩年期、1979年当時は元内縁妻の自殺、実兄ハリーの拳銃自殺が重なりました。Bill Evans本人はドラッグ中毒で指の震えが止まらない状況。。ラストトリオのベーシスト マーク・ジョンソンは入院を強くすすめていたようです。ラストトリオの演奏はBill Evansにとって破滅的な状況での演奏だったと思いますが、どんな精神状態で居られたのか。
身体的な限界を自覚した状況下で、 Bill Evansにとって音楽とは何だったのかを思い巡らせると、 胸に迫るものがあります。 黄金期と言われるラフォロの時代とはちがった意味で晩年期の演奏は”抜けた”ダイナミックな名演が多いです。
トリオフォーマットの中でもスタイルや型に囚われない自由な無方向性を志向するが、 取り巻く現実は、雁字搦めで逃れられない「死」への破滅的状況。 その落差、ギャップが紙一重の芸術性が宿る理由でしょうか。
チック・コリアの言った「演奏における自由」。
これがBill Evansの人生や音楽を顕した言葉かなと思います。現代のジャズ・ピアニストでBill Evansの影響を受けていないピアニストはいないでしょう。
常に進化・深化を求めて尽きてしまったBill Evansの狂気渦巻くラスト・トリオ!決して美しい演奏フォーマットではありません。助長もしていますが、Bill Evans本人が生前に語った最高のトリオ・フォーマットは下記のラスト・トリオでした。
LIVE AT LULU WHITE’S/ Gambit Spain
※2010/4/5に正式発売されたLive音源でここから晩年の演奏へ。
Bill Evans(p)
Marc Johnson(b)
Joe LaBarbera(ds)
録音:1979年10月30日
THE LAST EUROPEAN CONCERT-COMPLETE / Gambit Spain
Bill Evans(p)
Marc Johnson(b)
Joe LaBarbera(ds)
録音:1980年8月15日
COMPLETE LIVE AT RONNIE SCOTT’S 1980 / Gambit Spain
Bill Evans(p)
Marc Johnson(b)
Joe LaBarbera(ds)
録音:1980年7月21日・8月2日
初めて演奏したマイルス・デイヴィスなどメンバーの事を語っています。
普段聴くソースは現代モノがほとんですが、ジャンルを問わずレジェンド達の音源が今でも聴ける事に感謝です!凄いヴィンテージ・システムで聴くもよし、ハイエンド・システムでも聴いても、ヘッドフォンで聴いても良いと思います。
僕個人は音源ソースはファイルでもCDでもアナログでも、動画でも良いです。オーディオは清濁併呑できる装置ならOK。